グライダー

自力飛行できないグライダー人間
 エンジンがついていないので自力で飛行できないグライダー。
言われたとおりに行動するのは得意だが、自分で考えてテーマを見つけ論文を作るのは苦手な学生を、「グライダー人間」と揶揄するのは学者でエッセイストの外山滋比古氏です。 

 人々は、学校教育で受動的に知識を得ながら、自力で「飛んでいる」と錯覚している。日本の教育は「グライダー人間」重視で、自分で考える「飛行機能力」に乏しい人材の育成に偏している、という主張です。  
 その影響は官僚組織や多くの企業に色濃く、日本全体に及んで社会の硬直化を招いています。少子化と人口減少、環境問題、コロナ禍などの現代的問題に取り組み、これを突破して新たな社会の仕組みを産み出していくためには、既成概念を打ち破った新鮮な発想や創造力が求められています。

コーチングが「グライダー人間」を変える
 外山氏のエッセイを読みながら、社会変革にコーチングが有効なのではないか、と考えました。なぜならばコーチングは人間の自発的な思考を促し、自発的な行動を引き出すからです。つまりコーチングは、従順な「グライダー人間」を自力飛行できる「飛行機人間」に変えることができるスキルなのです。
 
 ひとは「質問」されると自動的に「考えよう」とします。適確な質問が繰り返されると、脳内の「思考」はどんどん深まり、思ってもみない「気づき」や「発見」が引き出されます。コーチングの原理は至ってシンプルです。人間としての信頼関係さえ築ければ効果を発揮するマジックです。
 こうしたコーチングの技能を教育現場の教師たちが身に付けたら、自力で考える能力を持った創造性豊かな生徒たちが生まれるのではないでしょうか。企業のマネジャーたちがコーチングを身に付けたら、新しいアイデアを持った社員たちがイノベーションを起こしてくれるのではないでしょうか。

お手本のない時代
 お手本があり、目標がはっきりしているところではグライダー能力が高く評価されるのは当然のことでしょう。明治維新から高度経済成長時代までは、恐らく「グライダー能力」が十分機能を発揮した時代でした。しかしそれから半世紀を過ぎて、日本社会の成功モデルも賞味期限を過ぎました。先進国の中で最初に高齢社会時代に突入した日本に、世界のどこにもお手本となる国はありません。これからの時代、状況に適応した社会モデルの構築に、豊かさを人々が共有できる持続可能な社会の仕組み作りに、私たち自身の力で取り組まなければなりません。
 グライダーにエンジンを搭載すること。これが目下の課題ではないでしょうか。  
(2021/8/23)

参考
「思考の整理学」外山滋比古 1986年ちくま文庫