2003Aug窓辺

2、未来を拓くための課題

<生産性の課題>
 日本は十数年前から人口減少時代に突入しており、35年後
(2055年)には総人口が現在より3千万人近く減少して1億
人を割り込む予測です。労働力不足は顕在化しており、地方
では過疎化が進み、消費も伸び悩み、GDPの伸び率は低迷
しています。

 社会の豊かさ、つまり社会保障などの生活水準を現在の
レベルより落としたくなければ、今後の課題は一人当たりの
生産性を上げることしかありません。これが第一の課題
です。

<AIデジタル化と人材育成の課題>
 社会の生産性を上げる特効薬があります。業務・生産
プロセスの機械化=AIデジタル化です。その開発導入のため
に人材が必要なのですが、残念ながら日本は世界のAI技術
開発競争に出遅れており、深刻な人材不足に陥っています。

 今後10年は掛るという覚悟で長期的に人材を育成していく
ことが求められます。これが第二の課題です。それは企業内
研修というレベルではなく、広く社会全体の教育改革でなく
てはなりません。

 教育改革の目的は、単にAIデジタル技能やプログラミング
技能を学校教育に導入することに留まりません。より根本的
に、「考える人材」の育成、という点が重要です。
 これまでの教育は「知識」を教えること、でした。上から
の「指示通り」に動く質の高い人間を、大量に育成すること
が教育の目的でした。
 
 これは明治期の富国強兵から高度経済成長期までの
日本の根幹を支えた教育理念でした。
 しかしその旧来の理念が前提とした労働集約型の仕事や
事務作業は、将にAIやロボットが得意とする所なのです。
そのような仕事や業務は早晩機械が人間にとって代わる
ことでしょう。

 プログラミング技能などの理数系知識と同時に、人間性
に関わる知性、人文学系の教養をバランスよく備えた人材
を育成することが大切です。
 
<生産性と人間性のバランス>
 AIを駆使して生産性を上げていく戦略は、経済的な豊かさ
をもたらしてくれるでしょう。しかし気を付けないと人間性
を見失う危険があります。AIを制御しているつもりが、いつ
の間にかAIが人間を支配し始める危険です。

 そこで第三の課題として企業と社会において「生産性」と
「人間性」のバランスを取る、という課題を掲げたいと思います。
 これからは「AIに負けない」人材の育成が求められます。
AIが不得意なこと。感性、創造性、問題解決能力、といった
「人間性」の領域に関わる能力を鍛えることが大事になります。
 
 答えのない状況に直面しても、想像力を働かせて解決への
糸口を探り、新たな道を見出していく能力です。
そこに求められるのは、人間にとって快適なもの、という
条件です。
 人の気持ち、共感力などの感情はもとより、デザイン性、
機能性、芸術性、品格・・・などのような微妙な美意識と
繊細な感性が求められるのです。

   ◆    ◆    ◆    ◆    ◆

・・・という訳で未来を拓く課題とは、
1)生産性を上げること、
2)教育改革を実施して人材を育成すること
3)生産性と人間性のバランスを取ること
の3つが挙げられます。

 これらの課題を解くカギがコーチングにある、と申し上げ
たいのです。端的に申しますと、コーチングの力で「人間性
」を尊重しながら「生産性」を上げることができる、という
ことです。

次章はいよいよ本論です。コーチングが企業や社会でどの
ように人材育成に貢献できるか、について考えを進めて
いきます。

(2020.12.10)