19-2-10散歩仲間F6
 散歩仲間

ある新入社員の話。入社後に経理に配属になりました。会計は最も苦手で嫌いでしたので、会社を辞めようかと思い悩みました。
踏みとどまったにはある先輩から言われたひと言でした。

「一人前になるには十年掛かるけど、じっくり取り組んだらいいよ」

十年とは長いなぁ、と感じましたが、その言葉に励まされ
て彼は会社に踏みとどまる決心をしたのです。簿記を習い始め、原価計算にも取組みました。
そして実務経験を重ねて何年か過ぎるうちに、あるとき数字を通して「会社の仕組み」というものが見えた気がしました。
「経理の面白さ」を感じた瞬間でした。

十年後、彼はニューヨークの関係会社で経理マネジャーとして財務会計を任されて仕事をしていました。経理は自分の天職ではないか、とまで思うようになっていたそうです。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

一人前になるにはガムシャラに頑張れ、とにかく努力しなさい、とか言われますが、本当でしょうか。
米国の行動心理学者アンダース・エリクソンは「熟練の10年ルール」という理論を唱えました。
一流の「熟達者」になるには、最低10年の努力が必要である、というものです。

個人を成長させる練習や仕事のやり方は「よく考えられた実践」(deliberate practice) と呼ばれます。
そこには3つの条件があります。

第一の条件は、課題が適度に難しく、手の届くチャレンジで
あること。
第二に、結果について誰か第三者のフィードバックがあること、
そして修正する力。
第三に、やりがいや意義を見つけてそれを楽しむこと。

チャレンジ、修正、やりがいを感じる、というこのサイクルを回して成長ができる、というものです。

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技能を磨いて一流のレベルまで高めるのには確かに10年位はかかる、という説は納得できます。ただ10年という長いスパンは若者には長すぎると感じます。
その前に、「3年ルール」というのもアリかな、と思います。
「石の上にも3年」ということわざもありますから。

何かを始めてから取り敢えず3年ほど努力を継続していると、一通り自分でこなせる「一人前」レベルに達します。 そうしたマイルストーン(里程標)を経ながら、「一流レベル」を目指すのはどうでしょうか。

もうひとつ、「周囲からの支援」という要素が重要です。
本人の努力だけでは10年継続は困難です。努力を継続するためのフィードバック、上司や周囲からの温かい支援が必要なのです。つまり第三者によるコーチングですね。

先日亡くなった小出義雄氏は、高橋尚子を一流の選手に育て上げた名コーチでした。
小出監督は、高橋選手の苦しい練習を励まし続け、成長する喜び、みんなに喜ばれる幸福感を教えたのでした。

個人で努力を重ね続けるのは至難の業です。仕事を楽しい、と思えること、仕事を「楽しめる」環境が作られるとき。そしてその努力を支えてくれる「他者」の存在。

そうした条件の下で、ひとは努力を継続し、能力を伸ばしていくことができるのではないでしょうか。

「10年ルール」は人材育成の基本であると思います。

(2019.4.27)

参考
「職場が生きる 人が育つ『経験学習』入門」 松尾 睦  
2011年 ダイヤモンド社
「超一流になるのは才能か努力か?」A.エリクソン
2016年 文藝春秋