立春 2019
森下典子さんが二十歳に出会って以来二十年以上
続けてきた茶道について書かれた本です。
いきなり名言が出てきます。
・・・世の中には、「すぐわかるもの」と、
「すぐにはわからないもの」の二種類がある・・・
すぐわかるものはいいけれど、すぐわからないものは、
時間を経て少しづつじわじわわかりだし、自分が見て
いたのは、全体のほんの断片にすぎなかったことに
気づく・・・
「お茶」って、そういうものだ、と言います。
グイっと「お茶」の世界に引き込まれます。
* * * *
お茶は「形」から入り、心は後から入るものだ、と
先生は教えます。お辞儀の仕方、部屋に入るときの
足運び、お点前で茶器を使う所作・・・
すべてに細やかな作法があり、初心者は面食らうこと
ばかりです。
人間を鋳型に入れる「形式主義」ではないか、と現代人
なら反発したくなります。
しかし、先生は「習うより慣れろ」「見て感じなさい」と
言うだけです。
このあたり、禅の精神と通じるものがあります。
精神と肉体。無と有。
ひたすら精進した者だけが辿り着ける境地・・・
スターウォーズでも老師が主人公ルークに教えます。
「目を閉じよ。そして感じよ」
”be force with you”
頭で考えることを止めてみる。
五感を研ぎ澄まして感じた先に、真に自由な世界が
広がっている・・・
* * * *
お茶は自然と繋がっています。
お茶席で使われる茶器、茶室を飾る「茶花」、菓子は、
季節を映したものが使われます。
何と優雅なことでしょう。お茶を愉しむのは、自然を
感じることに通じている、というわけです。
自分の生活を振り返ると、いかに自然から離れた
生活をしていることか、と愕然となります。
マンション暮らしでは、外の風の音、雨音も頑丈な
コンクリート壁に遮られて聞こえてきません。
道端に生えている野の草花にも、もっと目を凝らし
たいものです。風のそよぎに、雲の形に、もっと季節を
感じてみたいものです。
茶花のない季節などなかった。
退屈な季節など、ひとつもなかった・・・・
この言葉にハッとしました。
季節のなかでも、冬は嫌いだ、などと思っていま
した。
凍えるような冬の寒さのときも、降りしきる雨の日にも、
・・・どんな日も、その日を思う存分味わう。
「悪い天気」なんて存在しない。
たとえ、「苦境」と呼ばれる事態に遭遇しても、
その状況を愉しんでしまう。どんな日も楽しんでしまう。
「日日是好日」
お茶とは、そういう生き方のようです。
* * * *
初釜のとき、その年の干支をあしらったお茶碗を使う
そうです。ということは、次に同じ茶碗で飲むのは12年後。
前回飲んだのが12年前。
お茶は季節を巡りながら、干支12年のサイクルを永遠に
巡り続けているのです。
それに比べると人の一生は、何と儚げなことか
お茶は、「もの」でありながら、人間に精神的なことを
教えてくれます。
「形式」でありながら、心の持ち方を教えてくれるのです。
「日日是好日」を読み終えて、お茶にとても興味を惹かれ
ました。一度、落ち着いた茶室で、心ゆくまでお茶を楽しん
でみたい・・・
そんな気持ちになりました。
(2019.2.24)
参考
「日日是好日」森下典子 飛鳥新社2002年