2015-10-5コオロギ

30歳のとき、初めてアメリカで暮らし始めて気づい
たことは、アメリカ人が "enjoy your life"(人生を
愉しんでね)と口にすることでした。

1970年代の日本は、刻苦勉励、奮闘努力、など
と生真面目に仕事や勉強に取り組むことが奨励
されていた時代でした。
5時になると一斉に退社してしまうアメリカ人たち
がまるで宇宙人のようで不可解でした。

確かにアメリカには遊び方が豊富にあるように思え
ました。サマータイム制度のお蔭で夜が長く、人々
はゴルフやボートなどのスポーツを楽しみ、ダンスを
踊り、ミュージカルやコンサートなど目一杯人生を
愉しんでいたのです。

イソップ童話「アリとキリギリス」は、遊んで暮らす
キリギリスが罰を受け、働き者のアリが称賛される、
という話でした。アリが日本だとすると、アメリカは
キリギリスでしたが、豊かさを感じましたね。

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「人生を楽しむ」、ことは傍で見ている分には
分かるのですが、自分で人生を楽しむとなると
意外に難しいことです。
休暇が取れることは嬉しいのですが、休んで
何をすればいいんだい?と悩んでしまうのです。

家族で旅行にでかけても、あまりお金が掛けら
れないので、数日観光地巡りして帰ってくる
のが精一杯です。
ところがアメリカ人たちは、家族でキャンプを
したり、安い田舎の家を借りて長期のバカンス
を悠々と楽しんでいるのです。
川や湖でのんびり過ごしている姿は、観光地
巡りであくせくする日本人とは対照的です。

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時代は移って、日本もその後ずいぶん豊かに
なりました。
努力や勤勉という言葉は、どちらかといえば
否定的な響きに聞こえるようになってきました。

労働時間も以前と比べると少しづつ短縮されて
おり、ひとびとは、以前と比べると休暇や遊び
に肯定的になってきているようです。

でも、根本的に「人生を愉しむ」ようになって
いるか、というと、まだ道遠し、という気がします。

日本経済は長期的にみると衰退期にあると
思われますが、依然豊かな国であることは
間違いありません。
これからは、真の意味で豊かな国、豊かな
社会になっていって欲しいものです。
そのために掲げるべき旗は、個人として
「人生を愉しむ」ということかな、と思います。

(2015.9.10)