夏の風物詩、全国高校野球大会が終わりました。今年は優勝インタビューでの仙台育成高校の須江監督の言葉が話題を呼びました。
「青春は密」という言葉には新鮮な共感を感じました。そして選手たちへの労いの言葉に続けて、コロナ禍で不自由な環境を強いられた全国の高校生にもエールの拍手を送ろう、と呼び掛けたのでした。球場全体には感動のどよめきと共に大きな拍手が沸き上がりました。そして、それはテレビを通して全国の人々の感動を呼んだのでした。
素晴らしいスピーチでした。涙を懸命にこらえながらも、自分の言葉で、自分の思いを丁寧に語ろうとする須江監督の人柄、人間性がとても良く伝わったからでした。
この監督がどんな気持ちでチームを率いて戦っていたのか、どんな姿勢でひとりひとりの選手に向き合いながら来たのか。紡ぎだす言葉の端はしから伝わってくる気がしました。
あることを成し遂げるリーダーの条件とは何だろうか。日頃企業マネジャーの育成について考える立場から、須江監督の言葉の背景にあるリーダーとしての姿勢、生き方といったことについてとても興味があります。考察してみたいと思います。
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大きな仕事を成し遂げるために、最も重要なことを一言で言うなら「モチベーションの維持」ということです。 野球で言えば、「日本一」という目標を掲げることでとりあえずチームのモチベーションは一時的に上がるでしょう。しかしそれは長続きしません。日々の努力を重ねて「能力」を上げていく作業を続けていかなければならないからです。
選手の能力を高めるだけではなく、チームとしての連携=チーム力を高めないと勝てません。そのため日々の努力を、肉体的につらく厳しい練習を積み重ねて、それを何年も続けていかねばなりません。
須江監督のモチベーションを支たもののひとつに、10年前のある経験があったといいます。2011年3月の東日本大震災のとき、須江氏は中学の教員でした。被災地であった宮城県は全国大会の予選を辞退する方向に傾いていました。ところが、ある学校の卓球部の先生が県の体育委員会の会議で、「頑張ろうと思っている子供たちがいるのに、その声を聴かなくていいのですか?」と涙ながらに訴えたそうです。
その勇気あるスピーチは県の体育委員たちの心を動かし、ついに決定が覆ったのです。
このときの経験から須江氏は大きな学びを得ました。ひとつは、大人たちは主人公であるべき生徒たちの気持ちに寄り添い、その声にもっと耳を傾けるべきだ、ということ。そしてもうひとつは、あの卓球部の先生のように、自分に思いがあれば、それを勇気をもって発信すべきだ、ということを。
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試合に勝ち続け、頂点を極めるためには、とてつもない努力の積み重ねが必要です。その努力を支えるのは、野球技能というロジカルな知識・能力だけでは足りません。選手である生徒ひとりひとりに対する働きかけ、思いやり、といった人間的な感性、「情動知能」といった要素が必要なのです。
須江監督の言葉です。
「選手たちには、厳しさや緊張感と同時に、互いを思いやる優しさが日々の活動にあって欲しいと願っています」
何事かを成し遂げるために、必要な知恵がここに含まれていると思います。
(2022年8月28日)