心地よい居場所(税所彰のコーチングエッセイ)

私はマネジメント専門のコーチ。人口減少というメガトレンドの先に見えてくる新たな社会の「心地よい居場所」を探しながらエッセイを綴っています。コーチング、マネジメント、働き方、人材育成のこと、世の中との付き合い方などが主なテーマです。少しでも皆様のヒントになれば幸いです。                                

2022年08月

モチベーションを支え続けるもの

夏の甲子園2022|大会個人タイトル選手を選出!各部門で最高成績 ...

 夏の風物詩、全国高校野球大会が終わりました。今年は優勝インタビューでの仙台育成高校の須江監督の言葉が話題を呼びました。

「青春は密」という言葉には新鮮な共感を感じました。そして選手たちへの労いの言葉に続けて、コロナ禍で不自由な環境を強いられた全国の高校生にもエールの拍手を送ろう、と呼び掛けたのでした。球場全体には感動のどよめきと共に大きな拍手が沸き上がりました。そして、それはテレビを通して全国の人々の感動を呼んだのでした。

 素晴らしいスピーチでした。涙を懸命にこらえながらも、自分の言葉で、自分の思いを丁寧に語ろうとする須江監督の人柄、人間性がとても良く伝わったからでした。
 この監督がどんな気持ちでチームを率いて戦っていたのか、どんな姿勢でひとりひとりの選手に向き合いながら来たのか。紡ぎだす言葉の端はしから伝わってくる気がしました。


 あることを成し遂げるリーダーの条件とは何だろうか。日頃企業マネジャーの育成について考える立場から、須江監督の言葉の背景にあるリーダーとしての姿勢、生き方といったことについてとても興味があります。考察してみたいと思います。

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 大きな仕事を成し遂げるために、最も重要なことを一言で言うなら「モチベーションの維持」ということです。  野球で言えば、「日本一」という目標を掲げることでとりあえずチームのモチベーションは一時的に上がるでしょう。しかしそれは長続きしません。日々の努力を重ねて「能力」を上げていく作業を続けていかなければならないからです。

 選手の能力を高めるだけではなく、チームとしての連携=チーム力を高めないと勝てません。そのため日々の努力を、肉体的につらく厳しい練習を積み重ねて、それを何年も続けていかねばなりません。

 単なる精神論では、こうした努力を支える強い意志を持ち続けることはできません。モチベーションの持続を支えるもの。それはひとの行動、意思、信念を根底から支える強い人間力のようなものだと思います。

 須江監督のモチベーションを支たもののひとつに、10年前のある経験があったといいます。2011年3月の東日本大震災のとき、須江氏は中学の教員でした。被災地であった宮城県は全国大会の予選を辞退する方向に傾いていました。ところが、ある学校の卓球部の先生が県の体育委員会の会議で、「頑張ろうと思っている子供たちがいるのに、その声を聴かなくていいのですか?」と涙ながらに訴えたそうです。
その勇気あるスピーチは県の体育委員たちの心を動かし、ついに決定が覆ったのです。
 
このときの経験から須江氏は大きな学びを得ました。ひとつは、大人たちは主人公であるべき生徒たちの気持ちに寄り添い、その声にもっと耳を傾けるべきだ、ということ。そしてもうひとつは、あの卓球部の先生のように、自分に思いがあれば、それを勇気をもって発信すべきだ、ということを。

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 試合に勝ち続け、頂点を極めるためには、とてつもない努力の積み重ねが必要です。その努力を支えるのは、野球技能というロジカルな知識・能力だけでは足りません。選手である生徒ひとりひとりに対する働きかけ、思いやり、といった人間的な感性、「情動知能」といった要素が必要なのです。

 須江監督の言葉です。
「選手たちには、厳しさや緊張感と同時に、互いを思いやる優しさが日々の活動にあって欲しいと願っています」
 何事かを成し遂げるために、必要な知恵がここに含まれていると思います。
(2022年8月28日)









 

マネジャーの7つの行動タイプ

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          夏帽子 F6 2022年       

 ビジネスリーダーやマネジャーには7つの行動パターンのタイプがある、という米国の調査研究をご紹介します。(*調査については下記参照)

①他者利用タイプ
自分の成功だけを考え、他者を支配し利用することを合理的と考えるタイプです。権力志向が強く、いわゆるワンマンタイプです。少数派ですが、調査によると5%程度存在するようです。

②利害調整タイプ
周囲に配慮することに長けていて、礼儀や人間関係を重視します。ジュニアマネジャーに多く見られ、衝突を避けるため変革には否定的な態度です。全体の12%程度を占めています。

③専門家タイプ
リーダーで38%と最も多いタイプです。自分の専門知識や能力に磨きをかけて地位を維持しようとします。具体的には、会計士、アナリスト、ITエンジニア、企業内の専門職などです。
向上心を持ち、個人としての貢献度は高いのですが、ひとを管理するのは苦手です。ロジカルな思考に偏りがちで、EQ(心の知能指数)は弱い傾向です。

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以上の3つのタイプはパフォーマンスが平均以下のマネジャーです。もし自分がこれらのいずれかに当てはまるなら、行動パターンを変えることが必要かもしれません。自己の努力や、トレーニングを受けることで上位のタイプへの「進化」は可能なのです。
では次に、良好なパフォーマンスを生む4つのタイプをご紹介します。

④目標達成タイプ
社員のやる気を引き出し、成果を目指して行動できるマネジャーです。周囲の世界(市場や顧客、人間関係、社内状況など)を総合的に捉えており、衝突への対処もできます。ただし考えがやや平凡でステレオタイプになりやすく、専門家タイプの部下から批判を受ける可能性があります。調査全体の30%でした。

⑤個人尊重タイプ
目標達成タイプに近いが、より個性的でルールを逸脱する傾向が顕著なタイプのマネジャーです。自分と異なる行動パターンへの許容範囲が広いので多様性を上手く活かし、変革や難問へのユニークな突破口を見出す能力があります。調査対象の10%です。

⑥戦略家タイプ
個人尊重タイプと比べて、チーム組織へ働きかける能力が高く、人と組織を変革に向かわせるビジョン共有が上手です。社会や組織を固定的な存在ではなく変革を繰り返す発展プロセスと理解している点が特徴です。衝突を処理する能力にも長けており、有能な変革推進者です。調査対象の4%でした。

⑦改革者タイプ
実践的には「戦略家タイプ」で変革は十分可能です。しかし研究者たちは最後に、より長期的な視点を持つ「改革者タイプ」を抽出しました。歴史に残るような改革、社会変革を伴うような大きな物質的、または精神的改革のことです。カリスマ性があり、高い志を掲げます。調査対象の1%でした。

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④から⑦が良好なパフォーマンスを生む行動タイプですが、これらは順に進化する過程を示している、という点に注意が必要です。
取り合えず「目標達成タイプ」を目指して下さい。そしてその次により多様性を取り入れた「個人尊重タイプ」に進みましょう。更にチームや組織全体を動かす「戦略家タイプ」に進化するのです。
つまり、「行動タイプ」とは優れたマネジャーになるための一連のプロセスを示したもの、ということなのです。

(2022.8.06)

参考
”変革リーダーへの進化” D.ルーク、W.R.トーバート 
 「リーダーシップの教科書」2018年ダイヤモンド社
著者たちは25年にわたり欧米系企業の管理職に対して「リーダーシップ開発プロファイル」というアンケートを実施し、そこから行動パターン特性を抽出したもの。