心地よい居場所(税所彰のコーチングエッセイ)

私はマネジメントの専門コーチ。人口減少というメガトレンドの先に見えてくる新たな「心地よい居場所」を探しながらエッセイを綴っています。コーチング、マネジメント、働き方・人材育成のこと、世の中との付き合い方などについて考えを深めたい方、年齢に関係なくヒントになれば幸いです。                                

2021年08月

グライダー人間

グライダー

自力飛行できないグライダー人間
 エンジンがついていないので自力で飛行できないグライダー。
言われたとおりに行動するのは得意だが、自分で考えてテーマを見つけ論文を作るのは苦手な学生を、「グライダー人間」と揶揄するのは学者でエッセイストの外山滋比古氏です。 

 人々は、学校教育で受動的に知識を得ながら、自力で「飛んでいる」と錯覚している。日本の教育は「グライダー人間」重視で、自分で考える「飛行機能力」に乏しい人材の育成に偏している、という主張です。  
 その影響は官僚組織や多くの企業に色濃く、日本全体に及んで社会の硬直化を招いています。少子化と人口減少、環境問題、コロナ禍などの現代的問題に取り組み、これを突破して新たな社会の仕組みを産み出していくためには、既成概念を打ち破った新鮮な発想や創造力が求められています。

コーチングが「グライダー人間」を変える
 外山氏のエッセイを読みながら、社会変革にコーチングが有効なのではないか、と考えました。なぜならばコーチングは人間の自発的な思考を促し、自発的な行動を引き出すからです。つまりコーチングは、従順な「グライダー人間」を自力飛行できる「飛行機人間」に変えることができるスキルなのです。
 
 ひとは「質問」されると自動的に「考えよう」とします。適確な質問が繰り返されると、脳内の「思考」はどんどん深まり、思ってもみない「気づき」や「発見」が引き出されます。コーチングの原理は至ってシンプルです。人間としての信頼関係さえ築ければ効果を発揮するマジックです。
 こうしたコーチングの技能を教育現場の教師たちが身に付けたら、自力で考える能力を持った創造性豊かな生徒たちが生まれるのではないでしょうか。企業のマネジャーたちがコーチングを身に付けたら、新しいアイデアを持った社員たちがイノベーションを起こしてくれるのではないでしょうか。

お手本のない時代
 お手本があり、目標がはっきりしているところではグライダー能力が高く評価されるのは当然のことでしょう。明治維新から高度経済成長時代までは、恐らく「グライダー能力」が十分機能を発揮した時代でした。しかしそれから半世紀を過ぎて、日本社会の成功モデルも賞味期限を過ぎました。先進国の中で最初に高齢社会時代に突入した日本に、世界のどこにもお手本となる国はありません。これからの時代、状況に適応した社会モデルの構築に、豊かさを人々が共有できる持続可能な社会の仕組み作りに、私たち自身の力で取り組まなければなりません。
 グライダーにエンジンを搭載すること。これが目下の課題ではないでしょうか。  
(2021/8/23)

参考
「思考の整理学」外山滋比古 1986年ちくま文庫

マネジャーとチーム(2)

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(2)強いチームの条件
 「チームとは何か」について分かったところで、今回は「強いチーム」について考えてみます。強いチームには共通点があります。まとめると次のような条件です。
①揺るぎない目標があること
②「リアルなチーム」であること
③チームを支えるサポート体制がしっかりしていること

 マネジャーはこれらの要点を抑えることで、「強いチーム」を作ることができるという訳です。以下にひとつづつ解説していきます。

①揺るぎない目標があること
 結束の固い優れたチームでは必ず「揺るぎない目標」がメンバーに共有されています。それはメンバー全員が心から納得し、受け入れている確固とした「目標」なのです。チームの構成員であるメンバーは個性も能力も思考も異なる個人の集団です。放っておくとバラバラになりかねません。メンバーをしっかりとまとめ、チーム一丸とする方法が「目標」を掲げることなのです。

 ここに言う「目標」には3つの意味が含まれています。第一の意味は「ミッション」です。このチームが志向すべき抽象的な目に見えない価値。例えば、「誰にも負けない製品を通して、お客様に最高の満足を与える」、「このサービスを提供して困っている人々を救い、社会に貢献したい」などです。メンバーの心を奮い立たせるようなミッション、「使命感」に訴えるものがいいでしょう。

 「目標」の第二の意味は、「ミッション」を実現するための具体的なゴールです。「売上目標前年比130%」、「画期的な新製品を2年以内に開発する」などがその例です。

 そして第三の意味は、「目標を達成するプロセス」です。メンバーは「目標」を理解しているだけではありません。その達成のプロセスに関しても理解し納得していることが必要なのです。

②「リアルなチーム」であること
 ここにいう「リアルなチーム」とは、第一にメンバーが安定して入れ替わりが少ないこと、第二にメンバーの役割と権限が明確であること、そして第三に目標達成に必要な専門性・知識・技能を備えたメンバーであること、を意味しています。
 安定していてメンバー間の信頼関係が確立し、異質な個性や専門性を持ちながらも協力しあえるメンバーであること。これが第二の条件です。

③チームを支えるサポート体制があること
 サポート体制とは、まずチーム活動に必要なリソース(経営資源、情報、予算など)が与えられること。また、メンバーに対するトレーニング、研修、コーチングが充実していること。そしてメンバーのモチベーションを維持するために公平な評価制度や報奨制度が整備されていることです。
 チームが目標を達成するためには、周囲から多角的なサポートを受ける必要があります。マネジャーはこうしたサポート体制にも目配りしておかねばなりません。

 「強いチーム」になるための条件は他にもありますが、まずは上記の3つの基本条件をしっかり押さえておくことが大切です。どうでしょうか。今まで述べてきたことで、マネジャーとして何をすべきかが朧気ながら見えてきたのではないでしょうか。 次回はいよいよ「マネジャーの役割」について考察したいと思います。
(2021/8/19)

参考
「経営者の役割」チェスター・バーナード 1981年 ダイヤモンド社
「デキるチームの5つの条件」R.ハックマン 2005年 生産性出版

マネジャーとチーム(1)

15-5木陰にて木陰にて

(1)チームとは何か
 マネジャーの役割は、チームをまとめて業績を上げることです。
そのために、まず「チームとは何か」について考えてみます。

チームはグループではない
 「チーム」を理解するために、よく似た「グループ」の概念と比較してみましょう。チームとは、複数の人間が同一の目的に向かって活動する集団です。 一方グループとは、同じ思考、趣味、属性を持つ人々の集団のことで、同好会、クラブ、委員会、同業者組合などがこれに当たります。

 チームの特徴は目標がある所です。その目標を達成するためにメンバーが一致団結してそれぞれの役割を果たします。野球やサッカーなどのスポーツチームは、「勝つ」ことを目的としたチームです。
企業内の部や課といった組織も、「業績を上げる」という目標を達成するチームであると言えます。

チームのパフォーマンス
 もうひとつ。チームとグループの大きな違いがあります。それは、「チームの成果は個人の成果の総和を上回る」ということです。つまり1+1が2以上の成果を生むのがチームというものです。チームのメンバーが自分の仕事・役割に対して個人責任を負うばかりでなく、チームの成果に対する連帯責任を負うところから生まれるマジックなのです。チームメンバーが連帯して働くことを「協働」と言います。

 グループではメンバーは個人責任しか負わないため、「協働」は起こりません。チームとは、人間が協力しあうことで大きな成果を上げることができるのです。

チームとマネジャーの役割
 しかし現実にはどうかというと、これがそう簡単ではありません。下手をすると、チームの成果は個人の総和を下回ることだって大いに起こるのです。チームが本来のチーム力を発揮するかどうかは、マネジャーの力量に掛かっている、と言えるでしょう。メンバーの心をひとつにまとめてチームとしてのパフォーマンスを上げるためには、マネジャーの役割が非常に重要なのです。
 どうすれば強いチームになるのか。マネジャーはチームを動かすためにどうすればいいか、必要な能力は何でしょうか。次回はチームとマネジャーの役割について、更に考えを進めていきます。
(2021/8/18)