心地よい居場所(税所彰のコーチングエッセイ)

私はマネジメントの専門コーチ。人口減少というメガトレンドの先に見えてくる新たな「心地よい居場所」を探しながらエッセイを綴っています。コーチング、マネジメント、働き方・人材育成のこと、世の中との付き合い方などについて考えを深めたい方、年齢に関係なくヒントになれば幸いです。                                

2020年12月

コーチングの未来(1)

ストーブ

 人口減少時代とコロナ禍がもたらす近未来の社会変化に対
して、コーチングができること、何が貢献できるか、につい
て考えてみたいと思います。
少し長いので3回に分けて掲載します。

1、未来は創造するもの

 現代は歴史的な転換点を迎えていると言われます。私たち
の社会は1950年代から始まる高度経済成長期に匹敵する、
少なくとも50年に一度程度の大きな社会的歴史的変化(パラ
ダイムシフト)を迎えるのかもしれません。

 高度経済成長期に起きた様々な社会変化を思い起こして
みると・・・、人口の急増、都市への人口大移動、急速な
工業化と環境問題、大企業サラリーマン社会の成立、進学
競争、大量生産と大量消費の時代・・・。人々の生活意識や
価値観、消費行動はそれまでと比べて様変わりでした。

 「高度経済縮小期」の近未来には、人口増減のベクトルは
正反対ですが、これに匹敵する大きな社会変化が起きること
が予想されます。 今年はこれにコロナ禍が加わり、「人と人
の分断」という困難を人類に突き付けています。

   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   

 コーチングは対話によってひとの自発性を引き出し、能力
を高める技能です。単なるスキルに過ぎないのですが、人口
が減少して「ひと」の価値が相対的に高まってくる今日、
そしてコロナ禍によって「人と人との分断」を余儀なくされ
ている現代において、コーチングの持つ可能性をもう一度
見直すことが有益ではないか。そう思うようになりました。

 コーチングはひとの存在を認め、ひとの可能性を信じ
ます。ひとの能力を引き出します。「人間力(=自己基盤)
という力でひとを分断から救い出し、温かく包むことが
できます。
「高度経済縮小期」、そしてコロナ禍の現代にあって、もし
未来を切り拓く力人間にあるとすれば、コーチングはその力
のひとつになり得るのではないか。
そんな風に考え始めています。

「未来は予想するものではない。創造するものである」

 ある賢者の言葉です。手を拱いて待つのでなく、勇気を
もって取り組んでみることが求められているのです。
 未来は既にそこまで来ています。

  未来にはどんな問題や課題があるのでしょうか。 それを
探るなかに、コーチングの果たすべき貢献の姿が現れて来る
はずです。
次章では未来の課題について具体的に探っていきます。

(2002.12.09)

コーチングの未来(2)

2003Aug窓辺

2、未来を拓くための課題

<生産性の課題>
 日本は十数年前から人口減少時代に突入しており、35年後
(2055年)には総人口が現在より3千万人近く減少して1億
人を割り込む予測です。労働力不足は顕在化しており、地方
では過疎化が進み、消費も伸び悩み、GDPの伸び率は低迷
しています。

 社会の豊かさ、つまり社会保障などの生活水準を現在の
レベルより落としたくなければ、今後の課題は一人当たりの
生産性を上げることしかありません。これが第一の課題
です。

<AIデジタル化と人材育成の課題>
 社会の生産性を上げる特効薬があります。業務・生産
プロセスの機械化=AIデジタル化です。その開発導入のため
に人材が必要なのですが、残念ながら日本は世界のAI技術
開発競争に出遅れており、深刻な人材不足に陥っています。

 今後10年は掛るという覚悟で長期的に人材を育成していく
ことが求められます。これが第二の課題です。それは企業内
研修というレベルではなく、広く社会全体の教育改革でなく
てはなりません。

 教育改革の目的は、単にAIデジタル技能やプログラミング
技能を学校教育に導入することに留まりません。より根本的
に、「考える人材」の育成、という点が重要です。
 これまでの教育は「知識」を教えること、でした。上から
の「指示通り」に動く質の高い人間を、大量に育成すること
が教育の目的でした。
 
 これは明治期の富国強兵から高度経済成長期までの
日本の根幹を支えた教育理念でした。
 しかしその旧来の理念が前提とした労働集約型の仕事や
事務作業は、将にAIやロボットが得意とする所なのです。
そのような仕事や業務は早晩機械が人間にとって代わる
ことでしょう。

 プログラミング技能などの理数系知識と同時に、人間性
に関わる知性、人文学系の教養をバランスよく備えた人材
を育成することが大切です。
 
<生産性と人間性のバランス>
 AIを駆使して生産性を上げていく戦略は、経済的な豊かさ
をもたらしてくれるでしょう。しかし気を付けないと人間性
を見失う危険があります。AIを制御しているつもりが、いつ
の間にかAIが人間を支配し始める危険です。

 そこで第三の課題として企業と社会において「生産性」と
「人間性」のバランスを取る、という課題を掲げたいと思います。
 これからは「AIに負けない」人材の育成が求められます。
AIが不得意なこと。感性、創造性、問題解決能力、といった
「人間性」の領域に関わる能力を鍛えることが大事になります。
 
 答えのない状況に直面しても、想像力を働かせて解決への
糸口を探り、新たな道を見出していく能力です。
そこに求められるのは、人間にとって快適なもの、という
条件です。
 人の気持ち、共感力などの感情はもとより、デザイン性、
機能性、芸術性、品格・・・などのような微妙な美意識と
繊細な感性が求められるのです。

   ◆    ◆    ◆    ◆    ◆

・・・という訳で未来を拓く課題とは、
1)生産性を上げること、
2)教育改革を実施して人材を育成すること
3)生産性と人間性のバランスを取ること
の3つが挙げられます。

 これらの課題を解くカギがコーチングにある、と申し上げ
たいのです。端的に申しますと、コーチングの力で「人間性
」を尊重しながら「生産性」を上げることができる、という
ことです。

次章はいよいよ本論です。コーチングが企業や社会でどの
ように人材育成に貢献できるか、について考えを進めて
いきます。

(2020.12.10)

コーチングの未来(3)

2004Decサインボード

3、コーチングの未来

 コーチングが貢献できる未来の姿を、企業、教育、社会と
いう3つの分野別に探っていきます。

<企業におけるコーチング>
 企業における人材育成について考えてみます。
企業で求められる「マネジメント・コーチング」とは、
マネジャー(管理職者)が新たに身に付けるべきスキルで、
従来の経営知識に加えて、人材育成スキルとコーチング
スキルを併せ持つコーチングです。

 マネジメント・コーチングは、生産性の向上を至上命令と
する企業で絶対的に必要とされるようになるでしょう。
 なぜなら生産性の向上には、社員(ひと)の「人間性」へ
の配慮なくして成功はないからです。これからのマネジャー
(管理職者)の育成には不可欠のスキルとなるでしょう。
 経営大学院ではマネジメント・コーチングは必修科目と
なっていることでしょう。

  
 AIに負けない社員作りは生産性向上の第一歩です。ひとり
ひとりの社員の能力を伸ばすことが出来れば、それだけで
生産性は伸びます。異質な人材や、ハイパフォーマー、
ミドルパフォーマーも上手に組み合わせることでチーム力が
上がり、イノベーションが起こせるのです。

 マネジメント・コーチングはヒトをモノとみなす旧来の
労働観を駆逐します。代わりに「ひとの可能性を信じる」
人間観を確立します。
 AIには生産性を数倍、数十倍に伸ばす桁外れの能力が
あります。そんな超人的なAIを制御するには、堅固で強い
「人間力」が求められるのです。

 マネジメント・コーチング能力を備えたマネジャーが存在
する未来の職場は、社員が皆活気に溢れ、雰囲気が明るく、
高い生産性を上げています。職場ハラスメント?そんな
ものはとっくに死語となっています。

<学校教育におけるコーチング>
 次に学校教育における人材教育を取り上げます。
前章(2)で述べましたように教育改革において「AIに
負けない」人材育成が求められます。
ひとクラス15人以内の少人数クラスにして、ひとりひとり
の生徒の個性、能力に適合した教育、能力の育成を
図っていくことになるでしょう。

 そのため今までと異なるレベルの教師が必要です。世界
トップレベルの教育先進国であるフィンランドでは、教師は
すべて大学院修了者です。日本もこれに倣うことになるで
しょう。
 そうした新しいタイプの教師が身に付けるべき技能が
「教育コーチング」スキルです。これは生徒の能力を引き出
すためのコーチング技能です。

 新しい教育の目的は一方的な知識教育ではありません。
答えがない問題でも、どうしていけば解決できるか、と
いった課題解決能力や、創造力を引き出す教育が目的と
なります。
 自由な環境のもとで互いの思考を深め合い、自発的に考え
行動する青少年の育成こそ、新しい社会が求める人材となる
ことでしょう。
 「教育コーチング」はそうした人材の育成を目指します。

 学校のカリキュラムには、AIデジタル系の科目が加わると
同時に、コミュニケーションや人間力を鍛える人文学系の
科目も加えて、バランスの取れた人材育成を図ることができ
ます。この教育改革による新しい人材育成は、10年という長
いスパンで取り組むべき社会課題であると言えます。

<社会教育におけるコーチング>
 最後に社会教育における人材教育について考えてみます。
企業や社会で取り残された未開発の人材育成の領域がふたつ
あります。女性とシニアの人材育成です。

 第一は女性の人材育成の領域です。この国に眠っている
女性の潜在能力は無尽蔵です。ビジネス、政治、医療福祉、
教育・・・あらゆる分野での能力開発支援、リーダーシップ
力やキャリア開発支援が行われれば、女性のハイレベルで
の社会参加が高まることでしょう。

 将来社会の様々な分野で、女性のリーダーが少なくとも
三分の一を占めているようになって欲しいものです。
 但し、女性の能力開発には子育て支援など制度的な支援
と、時代遅れの男性優位意識の払拭、といった課題解決を
並行して行うことが成功の必須条件です。

 第二はシニアの能力育成です。年功序列・終身雇用制度の
崩壊により取り残されてしまった50~60代の中高年層に対
して、企業と社会がコーチングによる能力(再)開発支援す
れば、本人はもとより社会と企業に大きな利益がもたらされ
るでしょう。

 定年制や雇用に際しての年齢制限は早晩撤廃すべきです。
定年の廃止により、サラリーマンは一生をひとつの会社に勤
める束縛から自由になり、能力を生かせる場を自由に求める
ことが出来るようになることでしょう。

 リンダ・グラットン(ロンドン・ビジネススクール)は、
これからの長寿時代にはひとつのキャリアだけでは足りず、
人生ステージ毎に新しい技能を磨き上げていく「マルチス
テージ」ライフを提唱しています。
 サラリーマンも今まで積み上げてきた技能だけでなく、次
のステージで役立つ新しいスキルを身に付けてより良い仕事
に就くことが出来る訳です。

 こうしたシニア層のスキルアップにも、キャリア育成の
訓練を受けたコーチ(あるいはマネジャー)が大量に必要と
なります。
 高齢化の進むこの国の社会福祉制度はこのままでは財務的
な危機に瀕するリスクがありますが、高齢者予備軍である
シニア層に対しする支援を今から進めていくことによって、
高齢社会の未来が明るく開けてくるでしょう。


<コーチングの未来~まとめ>
 近未来の日本社会の課題は「生産性を上げること」です。
生産性を上げるプロセスには、「人間性」を基本とした
コーチングが不可欠となるでしょう。

 ビジネスの分野でAIを導入したり、イノベーションを起こ
したりするには、マネジメント・コーチングを身に付けた
マネジャーの育成が大切です。
 教育分野では「AIに負けない」人材を育成するために、
今までにない「教育コーチング」を採り入れた「教育改革」
が必要になります。

 また、女性の社会進出支援としてキャリア・コーチングや
リーダーとなるための人材育成コーチが求められること
でしょう。
 シニア層の「マルチステージ」ライフに向けてのキャリア
支援コーチングは、豊かな長寿社会の実現に向けての重要な
ツールとなるでしょう。

     ◆     ◆     ◆     ◆

 コーチングには未来を拓く大きな可能性があります。
これから私たちコーチが取り組むべきことは、それぞれの
分野を定めて、実践的なコーチング法を体系的に確立して
いくことではないでしょうか。 

(2020.12.13)

<参考>
「コロナ後の世界」大野和基編 文春文庫 2020年
「未来を見る目」河合雅司 PHP新書 2020年
「シン・ニホン」安宅和人 NewPicks出版 2020年
「ライフシフト」リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 東洋経済 2016年