心地よい居場所(税所彰のコーチングエッセイ)

私はコーチングの講師。高齢化社会で心地よい居場所を探しながらエッセイを綴っています。働き方・人材育成のこと、世の中との付き合い方などについて考えを深めたい方、年齢に関係なくヒントになれば幸いです。                                  

マネジャーと生産性

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生産性を上げる3つの分野
 企業の生産性を上げるうえで最も重要な役割を果たすべきキーパーソンはマネジャーです。現場で部下を率いているからです。
  マネジャーが生産性を上げる分野は3つあります。
1)社員を育成する
2)チーム力を伸ばす
3)業務プロセスを見直す

ひとつづつ解説していきます。

社員の育成
 社員の成長はそのまま生産性の向上に繋がります。社員の能力が伸びれば仕事を少しづつ委譲して、マネジメントの時間を捻出していくことが出来ます。現代は90%の管理職がプレイングマネジャーです。業務に忙殺されていて社員育成の時間が取れない、というジレンマを断ち切って、マネジメントの余裕を作ることを最優先すべきでしょう。
 
 ひとの育成に必要なスキルはふたつ。まずコミュニケーションスキルです。リーダーとして部下である社員と信頼関係を作ることは必須です。相手を認めてしっかり聴き、質問力で自律性を引き出すコミュニケーション力を身につけて下さい。
 第二に人材育成のスキルです。ひとの能力とは何か、能力を伸ばすとはどんなことか、行動科学を学べば、能力を効果的に伸ばすための様々な知識をえることができます。

 社員の育成については、実践的な場面でのより深い検討が必要です。例えば、若手社員を育てる、シニア社員のやる気を引き出す、ワーキングマザーや介護社員への対応・・・。あるいはハイパフォーマーを育成してイノベーションを起こす法、アベレジパフォーマーの扱い方、など「ひと」の多様性を生産性に結びつけていくことを考えていくことが求められます。

チーム力を強化する
 社員を束ねてチームとしての成果を上げることがマネジャーに求められます。そこでは、「私が中心」のリーダーシップではなく、皆を活かす役としての新しいタイプの「リーダー」が求められています。サーバント型リーダー、あるいはコーチ型リーダーと呼ばれます。

 チームを一丸とするには、ひとの心に訴えるメッセージ、「ミッション」が有効です。何のために私たちはこの仕事をしているのか。利他の精神に基づく崇高な理想が必要です。リーダーとしてまずミッションを掲げましょう。

 先ほどの「社員の育成」は、チームと連動していることが前提です。チームの結果があってこその個人の評価なので、逆ではありません。社員の育成が成功し、マネジャーの指示がなくても自律的に動く「自主運営型」のチームが出来たら最高です。また、特に秀でた能力がある訳でもないアベレジパフォーマーの集団でも、チームとして優れたパフォーマンスを上げることができます。

  チームメンバー同士が互いを認め合い、協力し合うチームは最強です。そのための秘訣はマネジャーが弱者にも気を配ることです。チームで一番立場が弱い社員でも自信を持って仕事が出来ている、そんな理想のチームを目指しましょう。

業務プロセスの見直し
 生産性を高める重要な方法は「業務プロセスの見直し」です。徹底してムダな仕事を排除することです。敢えて例えると、ビジネスとは有限な時間と人(インプット)を使って高い成果(アウトプット)を上げるゲームです。業務とは人が時間を使ってある仕事をすることです。成果に影響しない仕事は止めることです。
 
 業務見直しのフレームワークとして「ECRS」があります。Eliminate(やめる)、Combine(まとめる)、Rearrange(入れ替える)、Simplify(簡素化する)という4つの基準から業務を徹底的に見直すのです。例えば、無駄な会議をやめる、メールや文書作成にテンプレートを使って簡素化する、・・・など。
 これらを駆使していくことで職場の業務プロセスが改善されれば、生産性が上がることでしょう。

 業務見直しの過程でITやAIの導入が必要となる場合があります。これに伴ってもっと根本的な今までにない全く新しい業務プロセスが生まれるかもしれません。ビジネスイノベーションを生み出すことも、これからのマネジャーの視野に入れるべきことです。

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 業務プロセスの見直しについて、最後に付け加えておきたいことがあります。業務プロセスの目的は生産性の向上ですが、その過程で人間性の問題が関与しています。生産性が向上すれば残業を無くすことが出来、ひとには余暇時間が生まれます。仕事以外の人生を充実させることができるのです。 更にAI(人工知能)の登場で、人間の役割は何か、という新しい課題が生まれます。
 現代のマネジャーは、新しい哲学を持つ必要があるようです。

   
(2020年3月27日)
参考文献
「生産性」  伊賀泰代 2016年ダイヤモンド社
「チームを120%強くするメンタル強化メソッド50」
    浮世満理子 2015年 実業之日本社
「プレイングマネジャーの基本」 伊庭正康 
    2019年 かんき出版


生産性を考える

コンコース

<生産性が低い日本>
 日本の労働生産性(一人当たりの付加価値)は824万円で、OECD36か国中21位です。(2018年)  GDPが日本は世界3位であることを考えると、確かに生産性の低さが目立ちます。

生産性とは”一人当たりのGDP”のことで、次の式で表現できます。

総人口 X 一人当たり生産性 = GDP(経済の付加価値)

 日本の総人口は今後40年で約3千万人、26%減少する予測です。もし生産性が一定だと仮定するとGDPは同じ比率
(26%)だけ減少することになります。
 
 GDPとは国の収入ですから、国が貧しくなることを意味
します。特に日本は巨額の債務(1,200兆円、GDPの2倍)
を抱えている現状では、収入(GDP)額が減少することは、
財政上危険なことと言わざるを得ません。
 生産性の向上は私たちだけでなく、未来の日本社会の
ためにも必須の選択ではないでしょうか。

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<解決への道筋>
 では、どうすれば生産性を高めることができるのか。
第一に私たち日本人の生産性に対する「誤解」を解くことから始める必要があります。

 「良いものをより安く」ということが長年の日本企業のビジネスモデルであり、成功体験でした。しかしこれは人口増加だった高度経済成長期の労働集約型モデルでした。
 これからの人口減少時代には、「良いものを高く」という付加価値を高めるモデルに切り替えていく必要があります。

 ドイツは日本と同じく製造業中心の経済ですが、生産性は日本の1.5倍です。ドイツでは労働時間が短くて付加価値が高いのです。その秘密はドイツの企業は品質が高く、世界のニッチ市場向けのビジネスに優位性があるのです。
 ドイツのように高品質のグローバルニッチ市場を目指す経営に転換することで、生産性は格段にあがることでしょう。

 日本は世界4位の高い人材の質を持っています。人材を育成し能力を伸ばしていくことで生産性は上がります。短い労働時間で効率よく仕事することが出来れば、生産性が改善するばかりでなく、人々がもっと豊かな人生を得ることができるでしょう。

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 年率で1.7%づつ生産性が改善出来れば、20年後には世界でトップレベルの生産性の高い国になれる、という試算があります。簡単ではないでしょうが、まず第一歩を踏み出してはどうでしょう。舵を切ってみることです。
 
 生産性を上げる方法はいくつも挙げることができます。
しかし、それを実行していくことには様々な壁が存在しています。 どうしたら実際に、企業の職場で生産性を上げていくことができるのか。
その問題については、回を改めて考えてみたいと思います。
 
(2020.3.25)
参考文献
「新生産性立国論」D.アトキンソン 2018年東洋経済新報社
なぜ日本の会社は生産性が低いのか?」熊野英生 2019年文藝春秋

ラグビーに学ぶ「多様性」

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<ラグビー日本代表で驚いたこと>
 ラグビーW杯が日本で開催されたお陰で、日本でラグビーが脚光を浴びています。特に日本代表チームが強豪国を破った試合がTV中継されたことで、一気にラグビー人気が高まってきた感じです。

 日本代表を見ていて、外国出身の選手が多いことにちょっと驚きました。何と31人中ほぼ半分の15人が外国出身の選手です。日本もいよいよ多様性の時代が始まるのでしょうか。
 出身国はバラバラであるのにメンバー全員が一丸となって相手に突進していくラグビー日本代表チームの姿に、近未来の日本社会の姿が重なって見えた気がしました。
 
 現在、企業のなかで社員の多様化という現象が起きています。かつて高度成長期からバブル期のころは、企業は「男性・正社員中心主義」という単一の価値観でやってこれました。しかし人口減少時代に突入した現在、職場ではパートなど非正規社員はじめ、女性社員、シニア社員、介護を抱えた社員、障害を抱えた社員など様々なタイプの社員が増加してきました。

 もちろん外国人社員も増えています。かつての終身雇用を前提とした大卒一括採用、一律の昇進・昇格制度や人事管理などの日本的経営システムは、制度疲労を起こし、通用しなくなっています。
 
 現場の管理職マネジャーたちは、様々な事情を抱えた社員たちとどう接すればいいのか、どうしたらチームをひとつにできるのか。マネジャーだけでなく、企業にとっても大きな問題です。

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<リーダーは部下に任せてみる>
 ラグビー日本代表をみていると、そこに企業に役立つヒントが埋もれています。まず監督と選手との関係、企業でいうと上司と部下の関係です。ラグビーの監督はゲーム中は選手に細かい指示を出しません。
 そもそもゲーム中は監督はピッチに立てないので指示の出しようもないのです。そこでピッチ上での方針やとっさの判断を決めるリーダーが必要になってきます。しかし試合の展開が早いので、リーダーの指示を待っていると負けてしまいます。ボールを最初に持った選手の動きをみて、全員が一斉に動き出さねばなりません。つまり、全員がリーダーでもあるわけです。

 これを組織に当てはめると、上司であるマネジャーは全体の戦略を立てますが、細かい指示は出さずに部下たちに任せる、ということになります。社員全員に裁量と権限を与えて、自分で随時判断し、自己決定しながら俊敏に行動することができるようにしておく訳です。当然高い自律性が求められます。マネジャーの仕事は、そんな社員を鍛え上げておくことになります。

<チーム一丸にする>
 もうひとつ、マネジャーの大事な仕事は、社員のモチベーションです。ラグビーの監督ならば、選手に、「このチームの目的は勝つことだ」、と宣言するでしょう。日の丸を背負って、この国のために戦って勝利せよ、と言われれば、チームの士気は否応なく高まることでしょう。

 同じようにマネジャーも、社員に対して「このチームの目的は、お客様を通してこの社会に価値を届けることにある!」と宣言してみましょう。社員が働く意味は、お金とか出世だけではないはずです。自分自身の存在を掛けて打ち込むべき価値ある仕事をしたい、と心の奥底で願っているのではないでしょうか。

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<心の壁>
 島国日本の最大の弱点は、内向きで排他的な「島国根性」に陥る傾向があることです。何か新しいことにチャレンジすることが苦手です。「多様性」を受入れていくには、社会的な制度を作ればいいという問題だけではなさそうです。それ以前に、乗り越えるべきひとの心の壁が高く聳えています。

 人口減少と高齢化が進む日本社会の未来にとって、「ひとの多様性」を受け入れることは大きなチャンスです。移民社会になる必要は有りませんが、一定の枠で必要な人材を海外に求めることです。男性中心社会、という枠組みも見直しが進むでしょう。そのほか、あらゆる種類のひとへの「差別」を、ひとつづつ取り除いていく作業。それが「多様性」を受け入れていくプロセスです。

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 完成度の高いチームとは何か。元全日本代表監督の平尾誠二氏は、このチームは誰のものか?という質問をメンバーに投げかけるそうです。「これは私のチームです」とメンバーの全員が答えるチーム。それが完成されたチームである、というのです。

 今回のラグビーW杯の外国出身の日本代表選手たち。一度ある国の代表になったらもう母国の代表にはなれない規則だそうです。背後を断ち切って日本に来る覚悟をした選手たちを、私はどこの国の人であろうと、「ひと」として尊敬したいと思います。

(2019.9.30)