心地よい居場所(税所彰のコーチングエッセイ)

私はマネジメントの専門コーチ。人口減少というメガトレンドの先に見えてくる新たな「心地よい居場所」を探しながらエッセイを綴っています。コーチング、マネジメント、働き方・人材育成のこと、世の中との付き合い方などについて考えを深めたい方、年齢に関係なくヒントになれば幸いです。                                

知識と智慧

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 教育の荒廃が言われて久しくなります。学校は知識を教えるところであり、智慧を学ぶ、という発想は乏しいようです。そもそも先生方が「智慧」を教えられなくなっているのではないでしょうか。昔は先生は「偉い」存在でした。生きるための「智慧」を教えてくれたひとが先生と呼ばれ、ある種の聖職者として尊敬されていたものでした。

 それが、いつの間にか智慧が疎んじられて、教育において知識が幅を利かすようになってきました。原因はどこにあったのでしょうか。知識に偏重した大学入試のせいでしょうか。インターネットの普及で、世界の知識・情報が容易に手に入るようになったせいでしょうか。あるいは社会が豊かになるにつれて、あまり他者と関わらなくとも間に合う世の中になったためでしょうか。

 教育の原点を知識から智慧にシフトチェンジしてはどうでしょうか。新しい教育への道が拓ける気がします。

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 「智慧」とは、瀬戸内寂聴さんの言葉を借りると、「自分の行くべき道の方向を、自分の力で、誤らず判断する能力のこと」、とされます。つまり智慧とは、自分で知識を駆使してある問題の解決を図ったり、最適な判断をできる能力のことです。智慧は、自分で深く考える力であり、生きるための判断基準を与えるものなのです。知識をよりよく使いこなすための上位の概念、と言ってもよいでしょう。知識と智恵の違いを意識することが大事だと思います。具体的な例で説明してみます。

 私の住むK市は県内でも有数の観光地です。そのため近隣地域の中学や高校から多くの生徒たちがグループで訪れてきます。ひとグループ5人位で、自分たちの調べた場所を辿りながら街の各所を歩き回っています。
 知識の獲得が目的であれば、歴史や市内の地図を知ることができれば目的は十分達成、ということになるでしょう。しかし優れた先生なら、そこで別の課題を生徒たちに与えるでしょう。例えば、なぜK市は観光地になったのか。あるいは、5人がそれぞれの得意な能力を話し合い、事前に打ち合わせてベストの役割を決めたらどうなるか。もし道に迷ったり何か問題が生じた場合、地元のどんな人たちとどういう関わりが持てればいいだろうか・・・。

 課題を与えられると、生徒たちは自発的に考え始めるでしょう。自分の知識では足りず、何か別の情報が必要であることに気づくでしょう。他の仲間が思わぬ知識を持っているかもしれません。仲間以外の、街の人々とのコミュニケーションも大いに役立つことに気づくはずです。

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 このように、知識ではなく智慧に重点を置けば生徒たちのグループ活動は俄然活性化してきます。生徒たちの脳が活発に動き始め、モチベーションが上がるのです。自分たちで新たな課題を見つけ、どうしたら解決できるか「智慧」を出し合い、解決策を考えていけるようになります。こうして活き活きとしたグループ活動が生まれてくる、というわけです。ここで大切なのが先生の役割です。

 知識から智慧に視点を変えることで、先生は生徒たちを活性化することができるでしょう。それは企業においても応用できることです。マネジャーは部下たちを活性化することができるはずです。
 ビジネスは複雑で様々な問題に直面します。知識だけでなく、智慧の活用が欠かせません。マネジャーの皆さん、あなたのマネジメントは知識偏重に陥っていませんか。
(2021/11/24)

参考図書
「生きてこそ」瀬戸内寂聴 2017年 新潮社

マネジャーとチーム(3)

20-8-16初夏の水辺c夏の思い出

(3)マネジャーとチーム
ここではマネジャーの視点に立って、チーム力を高める具体的な取り組みについて考えてみましょう。
どうしたらチームを一丸としてチーム力を高めることができるのでしょうか。

ミッションを掲げる
どんな優秀な社員がいても、他のメンバーの気持ちがバラバラではチームとして成果は出せません。
チーム一丸とするには、まずミッションを掲げることです。
企業には社会的使命を果たそうというミッションがあります。あなたのチームにもミッションを作るのです。上位にある企業ミッションと矛盾のない範囲で、チーム独自の「使命」が打ち出せるといいですね。大事なのは、メンバーの心を奮い立たせる「言葉」、共に戦う仲間のシンボルとしての「軍旗」なのです。「このサービス(製品)で地域のお客様に笑顔を届ける!」など崇高なものが望ましいです。
やりがいのあるミッションを言語化してみて下さい。

協働プロジェクトを始める
第二に取り組むことは、協働プロジェクトを始めることです。
敢えてチームの全員を巻き込んで参加させるプロジェクトを実施するのです。マネジャーとして新しい部署に配属されたときなど、少し様子が分かってきた段階で何か新しいプロジェクトを戦略的に始めることがあります。「部門としての新しい課題を見つける」テーマを掲げて全員にアイデアを募る、などはいいかもしれません。議論を盛り上げて、発表会など開くのもチームの一体感を生む効果があります。


横のコミュニケーション
第三に提案したいことは、メンバー同士の横のコミュニケーションを活発化させる工夫です。チーム内には非公式のグループが自然発生的に形成されていることでしょう。しかしそれは「ヒト」を介したグループであって、チームの成果に直結するものではありません。あくまでも「チームの成果」という「モノ」を介した人間関係を形成する必要があります。
1on1ミーティングはマネジャーとメンバー間のコミュニケーションの改善に役立ちます。しかしそれだけではメンバー同士の横のコミュニケーションが欠落してしまいます。マネジャーは、1on1ミーティングで知りえた情報を活用して、メンバー同士のコミュニケーションを促し、活性化させるのです。メンバーたちがマネジャーの指示を待たずに、自発的に行動し始めたら大成功です。それはチーム力の強化に繋がる第一歩となることでしょう。

柔軟性
多様なメンバーのチームをまとめるには、マネジャーの柔軟性が求められます。外国人との混成チーム、あるいは異端児がいたり、様々な社員がチームには存在します。これをまとめていくマネジャーの資質として柔軟性が求められます。いろいろな人がいて、皆個性は違っていて構わない、むしろ違っているほうが面白い、とポジティブに捉えきれる幅の広い人間力です。

マネジャーになることは、最初は苦しいと思うかもしれません。しかし人間の能力は柔軟に出来ています。スキルを身に付けて困難と立ち向かい、柔軟に対応し、何とか切り抜けることが出来たとき、きっとあなたは内面的に成熟が進んでいることでしょう。
チームをまとめて成果を出していく、ということは、シンプルに聞こえてもそうた易いことではありません。しかし誠実にメンバーと向き合い、自分と向き合うことができれば、決して不可能なことではないのです。自分を信じて、メンバーを信じて一歩を踏み出して下さい。

(2021年9月17日)

グライダー人間

グライダー

自力飛行できないグライダー人間
 エンジンがついていないので自力で飛行できないグライダー。
言われたとおりに行動するのは得意だが、自分で考えてテーマを見つけ論文を作るのは苦手な学生を、「グライダー人間」と揶揄するのは学者でエッセイストの外山滋比古氏です。 

 人々は、学校教育で受動的に知識を得ながら、自力で「飛んでいる」と錯覚している。日本の教育は「グライダー人間」重視で、自分で考える「飛行機能力」に乏しい人材の育成に偏している、という主張です。  
 その影響は官僚組織や多くの企業に色濃く、日本全体に及んで社会の硬直化を招いています。少子化と人口減少、環境問題、コロナ禍などの現代的問題に取り組み、これを突破して新たな社会の仕組みを産み出していくためには、既成概念を打ち破った新鮮な発想や創造力が求められています。

コーチングが「グライダー人間」を変える
 外山氏のエッセイを読みながら、社会変革にコーチングが有効なのではないか、と考えました。なぜならばコーチングは人間の自発的な思考を促し、自発的な行動を引き出すからです。つまりコーチングは、従順な「グライダー人間」を自力飛行できる「飛行機人間」に変えることができるスキルなのです。
 
 ひとは「質問」されると自動的に「考えよう」とします。適確な質問が繰り返されると、脳内の「思考」はどんどん深まり、思ってもみない「気づき」や「発見」が引き出されます。コーチングの原理は至ってシンプルです。人間としての信頼関係さえ築ければ効果を発揮するマジックです。
 こうしたコーチングの技能を教育現場の教師たちが身に付けたら、自力で考える能力を持った創造性豊かな生徒たちが生まれるのではないでしょうか。企業のマネジャーたちがコーチングを身に付けたら、新しいアイデアを持った社員たちがイノベーションを起こしてくれるのではないでしょうか。

お手本のない時代
 お手本があり、目標がはっきりしているところではグライダー能力が高く評価されるのは当然のことでしょう。明治維新から高度経済成長時代までは、恐らく「グライダー能力」が十分機能を発揮した時代でした。しかしそれから半世紀を過ぎて、日本社会の成功モデルも賞味期限を過ぎました。先進国の中で最初に高齢社会時代に突入した日本に、世界のどこにもお手本となる国はありません。これからの時代、状況に適応した社会モデルの構築に、豊かさを人々が共有できる持続可能な社会の仕組み作りに、私たち自身の力で取り組まなければなりません。
 グライダーにエンジンを搭載すること。これが目下の課題ではないでしょうか。  
(2021/8/23)

参考
「思考の整理学」外山滋比古 1986年ちくま文庫